水稲栽培の技術において、中干しは数十年前より、コンバインによる稲刈りを確実なものにするために、各地域において徹底されてきました。
近年では、過剰分蘖を抑えたり、ガス湧きによる根の生育疎外抑制であったり、二酸化炭素の温室効果25倍と言われるメタン発生の抑制など、様々な理由をつけて農水省においても中干しの7日間延長と言う旗振りをするほど、中干しが必要項目となっている感じです。
しかしながら、本当にそうなのでしょうか?
私が就農したのが2,000年です。
収納直後は父の指導の下水稲栽培を行っておりました。
中干しの時期になると、わざわざ田んぼの水を落水させ、稲刈りできる田んぼの固さにするために乾かし、溝切をしていました。
その頃の悩みは、以下の通りです。
- ひび割れた田んぼには、中々水が広がらない。
- 水の取り合いで近隣農家との関係悪化。
- 分蘖数が少なく収穫量が伸びない。
- 初期除草剤の効果が切れて、ヒエをはじめとする雑草が蔓延る。
- 中後期除草剤の無駄な使用。
それが、中干しをやめた事で、驚くほどの改善がなされました。
私には疑問がありました。
稲作を行う農家にとって、一定数以上の収穫量を得る事が、大切な目的だと思います。
収穫量を上げる事=茎数確保・穂数籾数の確保かと思います。
にもかかわらず、中干しを行う理由の一つに、過剰分蘖の抑制とあります。
分蘖によって茎数を増やす事が大事なはずなのにもかかわらず、分蘖を抑制するという事は収穫量を減らしに行く行為と同等と感じておりました。
中干さなければ、分蘖は促進し、茎数が確保される。茎数が増えれば穂数や籾数も確保され収穫量は安定するわけです。これが中干さない第1の理由です。
次に、中干しによる初期除草剤の処理層の破壊です。
私は素直な性格ではないため、中後期除草剤がなぜ必要なのか?と常に疑問を持っていました。
移植直後~移植5日以降など、水稲における初期除草剤は薬剤によって、散布できるタイミングや使用量など異なっています。
ただし、どの初期除草剤においても、散布後漲水状態を3日は確保して、処理層を作る事が求められます。1日で落水してしまう様な田んぼでは、処理層がうまく形成されず、雑草が生えやすくなります。
そこで、川原農産で考えたのは、初期除草剤の雨の日散布です。
これにより、処理層をしっかりと形成し、雑草を抑草するのが川原農産のやり方です。
ですが、一般的なやり方をしてしまうと、移植後1か月を過ぎると中干を始めてしまいます。中干をすることによって、折角つくった初期除草剤による処理層を破壊してしまう事になります。
破壊されたことにより、雑草は待っていましたと言わんばかりに生えてくるわけです。
これが中干さないで、処理層をキープできればしっかりとした抑草効果により、無駄な中後期除草剤を使用しなくてよくなります。
中干さない事によって、農薬の使用数を軽減させることが可能になるのが、第2の理由です。
ガス湧きによって、生育阻害が起きるとおっしゃる人もいます。
残念ながら、川原農産では元肥を使用しておりませんので、全く心配していません。
なぜならば、川原農産は肥料を投下しない事によって、根が不耕起層に向かって伸びていくのに対し、一般的な移植栽培においては側条施肥が多く、植え付けした苗のわきに肥料を投下していく流れです。
ガスの発生は、前年の藁などの有機物に起因します。
つまりは耕起層で発生しやすいと考えられます。
移植による植え付けの深さは、分蘖促進を考えると、深植えではなく浅植えが考えられます。
耕起層に植え付けし、耕起層に肥料を落とす為、根は耕起層に集中してしまう事が考えられます。
ガス湧き層である耕起層にしか根を伸ばせないから、生育阻害がおきると私は見ています。
現に川原農産の稲の根は、量も長さも多い状況です。
秋起こし無しの春起こしで、そのまま代掻きして移植する田植えをしているので、田んぼに足を入れれば、ブクブクブクと大量のガスが出てきますが、一向に生育阻害を受けません。
生育阻害を受けず、分げつ数を確保できる事が第3の理由です。
田んぼが乾かなければ、コンバインが走行できずに稲刈りができないとおっしゃる人もいます。
ここも問題はありません。
就農間もないころ、親戚のおじさんが良く私に言って聞かせていました。
「稲は花の時期が一番みずがいるんや!それが終わればほとんど水はいらん!盆過ぎて水を入れたらだめや!稲刈りできんがになる!」
と毎年のようにいっていました。
一般的な栽培方法では中干しをする為、花の時期に水をこぞって取り合います。ですので近隣農家との関係性も微妙にならざるを得ません。
しかし、川原農産は中干さずでいくため、皆が水の欲しいタイミングまで水を張り、そこから落水する為、喧嘩になりません。
私は、親戚のおじさんの言う事をそのまま遂行しました。
花の時期まで水田はドボドボでぬかるんだ状態を作っておきます。
花の時期めがけて、止水か落水をします。(品種によって対応を変えます)
そうすると、田んぼの中にある水分をここぞとばかりに、必要なタイミングで吸い上げてくれるため、コンバインが走行可能な田んぼの固さへと仕上がります。
結果、長期水張によって大きな副産物が生まれます。
- 抑草効果の維持
- 分蘖促進による茎数確保
- 幼穂形成期の成長促進による、穂長籾数の増加
- 保水性向上による品質の向上
- 葉色の減退無し
- 入水時の水の広がり良好
などなど、沢山の恩恵が生まれこれらは全て、コスト削減と収益向上に繋がります。
これが第4の理由です。
10年ほど前に水稲農家の先輩に言われたことがあります。
田んぼの土壌成分を図るなら、収穫直後じゃなく田植え前にしなきゃ意味がないと言ってました。
収穫直後は土壌からの収奪がある分、田んぼは痩せているのかもしれません。しかし、一冬置いて田んぼが同じ状態かと言うと違うと言ってました。
また、田んぼが乾けばその分窒素分は抜けていくとも言ってました。
ここからヒントをもらい、中干をする事は田んぼの窒素分を抜く事になるのではないかと考えました。
つまりは、中干さなければ窒素分は抜けないので、追肥も不要になるのではないかという事です。
元肥も、追肥も投下しなくてもいい状況を生み出せると考えて実験してみた結果、予想は的中しました。
移植直後は弱々しくても、徐々に分蘖して株は増え、葉色は落ちることなく上昇し続ける栽培体系になりました。
これが第5の理由です。
過去、25年にわたる栽培経験の中で、言われた通りやったのにうまくいかない。その結果後々に苦労が待っているというのが、常でした。
うまくいかないのは、それなりの理由があるという事です。
なぜ、除草剤が必要なのか?何回も散布するのは何故なのか?1回で終わらせられないのか?
なぜ、カメムシやいもち病の農薬散布が必要なのか?使わなくてもいい状態はどうしたら作れるのか?
なぜ、なぜ、なぜ、、、
この疑問を解決するために思考する、イメージして試してみるという事を、先代より代表権をもらって取り組み始めたのが、平成28年の栽培からです。
会社を潰しかけるほどのバカげた実験も行いました。
痛い目を見て、苦労して得た答えが上記の通りです。
信じるも信じないも自由です。なぜならば、農業は取り組む環境によって同じようには結果は出ないという事です。
ただし、誰かの経験値は自分の経験値に似せていく事は可能です。
どこかの水稲農家さんの役に立てれば幸いだなと思います。
